寒い日が続きますね。他の場所に比べれば、東京は暖かいと思いますが、それでも、寒い!冬になると、読みたくなる本があります。それは村上春樹(むらかみ はるき)の『羊をめぐる冒険』(A wild sheep chase) 。どんどん寒くなって、北海道に雪がもうすぐつもり始めるという季節の話です。暖かい部屋の中やベッドの中で、この本を読むのが好きです。
突然ですが、ここでその本から少し引用をしてみます。
「よくここの場所がわかりましたね」と僕は言ってみた。
「我々には大抵のことがわかる」と男は言った。
「羊の居場所以外はね」と僕は言った。
「そういうことだよ」と男は言った。
本の中の会話は普通、こういう文体で書かれています。「言う」の過去形「言った」が使われます。他の作家でも同じです。
しかし、実際の会話、例えば、私が山田さんと話している場合は次のようになります。
私: 山田さん、明日の会議に出席する?
山田: うん、昨日、出席するって言ったよね。
私: そっか。じゃあ、田中さんは?
山田: 出席しないって言ってた。
私: あっ、ごめん。今、何て言った?
山田: 田中さんは出席しないって言ったんだよ。
ここで、「言った」と「言ってた」が両方使われています。「言ってた」は「言っている」の過去形、「言っていた」ですが、早く話す時に「い」が取れてしまいます。この使い分けはどうやってしているのでしょう?それは、主語つまり、言った人によって変わります。では、わかりやすくするために、上の会話に主語を入れてみましょう。
私: 山田さん、明日の会議に出席する?
山田: うん、昨日、出席するって私は言ったよね。
私: そっか。じゃあ、田中さんは?
山田: 出席しないって田中さんは言ってた。(*1)
私: あっ、ごめん。今、何てあなたは言った?
山田: 田中さんは出席しないって私は言ったんだよ。
主語つまり、言った人(注意:出席する人ではありません)が「私」か」「あなた」の場合は「言った」を使います。他の人(第三者)が言ったことを第二者に伝える場合には、「言ってた」を使います。その使い分けをすることで、主語を省略する日本語の会話でも、動詞の形から、「だれが言ったか」わかるのです。
本の文体は、書く人も読む人もその会話の中には含まれていないので、登場人物が言ったことをそのまま作家が書くだけです。
また、*1の文は「田中さんは言ってた」の部分を省略して、「出席しないって」だけでもOKです。「って」が他の人から聞いたことを伝える(伝聞‐でんぶん)という役割があります。あるいは、「出席しないそうです」と言うと、ていねいな伝聞になります。 「出席しないって」という主語無し、動詞無しで話される日本人の会話についていけるようになれば、すごいですね。